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青木は五人ほどの子分とともに縹を取り囲んだ。にやにや笑っている。
「おー、『自分でやれよ』か。お前が俺に泥棒を命令したって、うちの親に言ってやるよ。お前の親、地方公務員だろ。うちの親は、都議会の議員にパイプがあるんだぞ。すぐクビにしてやるからな」
そんなことできるわけがない、と思う。しかし、親に多大な迷惑をかけることになりそうだ、と思うと、一瞬気持ちが揺れた。
「……もういいよ。ごめん。縹の家に迷惑かかっちゃう……」
すっかり怯えてしまった柏木が、涙声で言う。
そのときだった。
「もういいんじゃないですか? 目的のカード、先輩たちもう持ってるじゃないですか」
場違いな明るい声がした。
縹が横を見ると、そこに小柄な中学生がいた。小原幹生だ。
いつも少し顔色が黒ずんでいて、なにか持病でもあるのではないか、とみんなに噂されている生徒だった。
「なんだよ」
「ほら、それ」
小原が青木たちのスポーツバッグを指さした。車輪止めのブロックの上に置かれていた荷物だ。外付けのポケットから、カードのパッケージがのぞいていた。さっきまで、柏木に「盗って来い」と命令していたカードだった。
「なん……なんで。お前が持ってきたのか?」
「お前、自分で買ったのか?」
縹が面食らって小原にたずねると、小原は、にやっと不気味に笑った。
「違いますよー。青木先輩が自分で盗ったんですよ。僕、決定的な瞬間を見たので、警察にも通報しておきました」
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