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ほどなくして近くの交番から制服の警察官がやってきた。小原とコンビニの店員に話を聴き、青木を交番まで連行することになった。
そのあいだ、青木は自分の身に起きていることが理解できす、逃げることさえできなかった。
「おかしいだろ、俺が盗ったっていう証拠はあるのかよ!」
青木は警察官に叫んだ。
「店内の防犯ビデオにちゃんと写ってるんだ。自分の目で確認してもらおうか」
その後、青木がどうなったのか、詳しい事情はわからない。しかし、どうやら二度目の転校をするはめになったらしく、校内では見かけなくなった。
縹と柏木は、後日、真相を小原にたずねた。
「どんな工作をしたかって?……僕は、青木の顔になって盗ってきたんだよ。ちゃんとビデオに映るように角度も工夫して。光学的擬態、そういう能力なんだ」
縹は信じられなかった。そんなのは、アニメかなにかに出てくる怪盗の技だ。
「怪盗かあ。たしかにね、そういうことできる能力だよね。でも僕はやらないよ。そんなことしたら、人間の世界で生きていけなくなっちゃうから。犯罪は最後の手段だよ」
「よくわからないけど、助けてくれてありがとう」
柏木が大きく頭を下げた。それを見て、小原は複雑な表情になった。
「いや、いいんだ。……代わりに、僕の能力の事は内緒にしててね。絶対に誰にも言わないで。じゃないと、僕誰にも信用されなくなっちゃうから」
最後のほうは懇願するような口調だった。
十五年前の縹少年は、狐につままれたような気持ちでこの会話を聞いていたのだが――。
現在、研究者となった柏木は、小原の例の能力について、ずっと解明したいと思っていたようだ。
「縹、俺たちが出会った小原幹生は、本物のカメレオン人間だったんだよ」
「お前は、あいつがそういう化け物だと思ってるのか。ええと、なんだ。タコの仲間とか……?」
柏木は、泡の消えたビールのグラスをじっとみつめて、険しい顔つきになった。
「俺たちはそろそろ、彼らを分析し、対抗する手段を考えるべきなんだよ。俺には、お前みたいな正義感はない。でもこれは俺の倫理観なんだ。人類の危機を、見て見ぬふりはできないんだよ――」
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