光学的擬態生物(ミミック)

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 戒名は「成城美容整形外科医殺人事件」だった。  縹亮介(はなだ りょうすけ)はその文字列を捜査本部の入り口ではなく、後輩からの電話で知った。縹は三十代、警視庁捜査一課丸山班に所属する警部補だ。今日は、世田谷署の大会議室に設置された捜査本部へ出向――のはずだった。 「今回は、お前は行かなくていい」  昨日深夜、書類の山に埋もれていると、班長の丸山から直々に言い渡された。 「お前にはしばらく資料課の手伝いをしてもらうことになった」  縹は困惑でとっさに言葉も出なかった。 「お前は深沢の出身だったな。今回のヤマ、被疑者が柏木寛太と言えば事情がわかるか」  小学校時代からの幼馴染の名前が出た。どうやら、被疑者が身近な人間だったので、捜査からおろされたようだ。 「お言葉ですが、私が捜査に私情を持ち込むことはありません」  気色ばんだ縹に、丸山は黙って一枚の画像を差し出した。  それは、ホテルの宴会場で撮影したものだった。一か月前の中学校の同窓会の写真だ。親しげな様子の五、六人のグループが写っていて、その中で縹と柏木は隣あわせになって収まっていた。
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