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僅かに入ったヒビがあっという間に広がってあっけなくガラスが割れるように、隙間さえできればこの拘束も解ける筈だ。
そう信じて指先から眉毛に至るまで、森宮は必死で動かし続けた。
いくら動いても無駄かもしれない。
だが、今、森宮にできることはただ「動く」ことだけだった。
動くことで少しでもどこかのテープが緩むならそれが突破口になるはずだ。
指一本でもいい。
頼む。
念を送るように指先に意識を集中させた。
テープは指先から手首のあたりまでびっちり巻かれているらしい。どうひねってもがっちりホールドされたままである。
夏なら、汗で粘着力が弱まったかもしれない。だが、残念ながら今は冬だ。かなりの運動をしない限り、汗をかくのは難しい。
それでもあきらめるわけにはいかない。
鼻息ばかりが荒くなる。情けなくて涙が出そうだ。
いっそ泣くか。
泣けば涙でテープが湿って目を覆っている部分が剥がれるかもしれない。
今までで一番悲しかったことを思い出してみよう。
ふーっ、ふーっ、息を整えながら考える。
今が一番悔しくて悲しい、もどかしい腹が立つ。
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