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自業自得とは言え、完全に拒絶されてはやることがない。さてどうしようかと少し悩んだ畠中だが、ヒラサカ村は見た感じ非常に小さい。小さいからこそ秘境同然みたいな村になったんだろうなとわかる。
ならば簡単に村を散策してみるかと思い至った畠中は、とりあえず四方家へ来るときに通った道とは違う道を歩き始めた。
「(しかし俺の自業自得とは言え、あそこまで怒らなくてもいいと思うんだが……いや。むしろあそこまで激怒されると理由が気になるな。祭りそのものが禁句なのか?それとももう既に廃れていて村の長しか知らないとか……いやそれならあそこまで怒ることはないな。ならやっぱり外に漏れだしてはいけない類なのか。となるとより一層どんな祭りなのか気になる。一体どんな意味のある祭りなのだろうか、この村にとってどれだけ大事な行事なのか……一体この村は何を崇拝しているのか……一体何を願って行われる儀式なのか……ああ、ダメだ、知りたくて知りたくて仕方ない!)」
相変わらずの鉄仮面だが、内心ワクワクが止まらず思考に耽りながらヒラサカ村を適当に歩いていた畠中だが、何かに気づいて思考の海か浮上する。
背中に刺さる視線。
——いや、体全体が何か鋭利なものに刺されたかのように痛い。
ハッとして辺りを見渡す畠中。どう見ても、畑と田んぼと森と古民家しかない何とものどかな村だ。
しかしそんな静謐な風景の中に、鋭い視線が混ざっている。村人の目だ。
巨体だから目立つというのもあるだろうけど、それにしても畠中を見る村人の目が異様に鋭い。皆、作業の手を止めて彼を睨んでいる。
「(……? 何故俺はここまで睨まれなければいけないんだ?何をしたというんだ)」
流石学者というべきか、彼はすぐにこうなってしまった事態を分析せんと再度思考の底へと沈んでいく。
「(俺はよく物事を考えながら移動することが多いし、よくそれで教授に危ないと怒られる。……四方さんの家からここに来るまでの記憶が全然ないな。となると、俺はまたやらかしたか。無意識でここまで足を運んだとなる。無意識下で何か粗相をするとなると……考えられるのは大事な作物を踏んだか、誰かにぶつかっていたか。でもそうだとしたらその場で叫ばれて怒られるよな……。他に何が考えられるだろうか)」
また物事を考えながら村の中を進んでいく。しかし依然と変わらず、村人はその巨体を睨んでいた。
流石にここまで睨まれていれば、意識が全然違うところに飛んでいる畠中でも段々と居心地が悪くなる。しかし彼の中で一つの結論が出ないと気が済まないのか、多くの視線がグサグサと刺さったまま更に考えていた。
「(……あ)」
——もしかして。
一つの仮説がふと彼の中で浮かんだ。
「(四方さん宅での騒動がもう広まった……?怒鳴られる直前に村人に伝えるとは言っていたけど……それにしても早すぎはしないか?四方さんの家から追い出されて何時間経った)」
右手首に巻かれている腕時計を確認する。
しかし追い出された時と比べて分針はそんなに動いてはいない。むしろ文字板に描かれている小さなメモリ三、四つ分くらいしか動いていない。
「(いくら小さい村とは言え、そんなすぐに伝わるか……?)」
自分の中に浮かんできた仮説に疑問を覚えるも、今の彼にはそれくらいしか思い浮かばない。
「(もしや、この謎の伝達性が例の祭りと関係があったり……?)」
再び村の景色を見渡す。防災無線などの近代機器すら見当たらない時代遅れの村である。そもそも防災無線で伝達されていれば畠中本人も流石に気づく。謎はさらに深まるばかりだ。
「(……しかし言えることは一つだけあるな)」
防災無線を探していた畠中の目は、再度村人へと見やる。村人は睨んでいることを隠そうともしない。
「(流石にここまで睨まれていれば居心地が悪い!悪すぎる!)」
あまりにも痛い視線に、もう村全体が歓迎していないなと肌でわかってしまった畠中。
村に着いたばかりの時はここまで酷くなかったのに、むしろ歓迎されていたのに、いや俺が悪いけど……でも、と腑に落ちない様子の畠中だがここまで嫌悪感出されてしまっては仕方ない。折角来てあれこれ調べたかったけど、新しいことが知れるかもと楽しみにしてやって来たけど、でも村全体が反抗的な態度になってしまった。もったいないけどここは村から出ていった方がよさそうだと結論付けた。
そうと決まれば早い。早くこの村から出よう。畠中の足は何処か重たげだが、畠中の足は当初村へやって来た時に通ってきた獣道へと真っ直ぐ進んでいく。その間も、かの巨人を監視するかのように村人の鋭い目線は一時も離れない。
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