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やっぱりか
昼間の誰もいない住宅地を抜け、人通りの多い駅前までやってきた僕は自分の目を疑った。なぜならそこには僕があのマシンにセットした彼が、お向かいの家に入って行った彼が、うじゃうじゃと歩いていたのだから。
老若男女どこもかしこも彼の顔。
同じ顔がこれだけたくさんあると爽快を通り越して気持ちが悪い。うげえ。うわっ。あの彼が連れてる犬の顔まで彼になってるじゃないか。ぬおっ。飛び出してきた猫っぽいアイツまで彼の顔が付いている。人面犬に人面猫……。ふと見上げると、伝線に止まっているスズメらしきものまでもが彼の顔になっている。
ああ、やっと完成したと思ったのに……。
自分を好みの人間に変身させられるマシン。本当なら彼の顔になるのはぼく一人で、僕はあの彼の顔でモテモテウハウハな人生をこれから送って行くはずだった。
がっくりと肩を落とし、噴水の前にあるベンチに座った僕は街の人たちをぼんやりと眺める。あっちを見てもこっちを見ても彼ばかり。しかし、同じ顔が街中に溢れているにもかかわらず、皆いつもと変わらない日常を送っているようだ。おかしいなあ。自分とすれ違う人間すべてが同じ顔をしているだけでなく、そこかしこにいる動物たちまで同じ顔になっているのに違和感を感じないのだろうか。
あっ! そうか!
もしかすると、皆の顔が彼の顔に見えているのは僕だけなのかもしれない。あの明滅でちょっと脳がつかれているだけなのかも。そうだ。そうに違いない! なら何の問題も無いじゃないか! さあ、家に帰ろう!
元気を取り戻した僕は、ショーウィンドウに映る自分の姿を見て呆然と立ち尽くした。
だってそこには『彼』じゃなく、紛れもない『僕』がいたのだから。
<終>
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