Madder Red

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Madder Red

be6238fa-35e9-4111-9919-f72895f8f7e5  朝の澄み切った青空に映えるマダーレッド。  この時期は、目黒川沿いに続く「桜もみじ」が視野の大部分を茜色に染める。  春は小さな花びらが川面を少女の頬のような色に染め、秋には成熟した大人の葉たちが恋に破れて、はらはらと散りゆく桜並木。 「もう少しだけ、あなたのそばにいさせて」と、最後にすがるように。  幼い頃の自分の姿と重ねる。  唯一の家族であった母親が俺を置いて出て行ったあの日の、為す術もない惨めな姿を。  鍵を掛けた心は固く閉ざされている。  おかげで後腐れなく人生を終えられる。  心残りだとか、後悔なんていらない。  だから期待させないでくれ――。 「もう少しだけ」とか、「あと少しだから」だとか、そう言った類いの言葉を向けて。  その場のエモーションに流されて吐く、取って付けたような言葉は非合理的。  こうして地面を蹴る度にカラカラと寂しげな音を立てる落ち葉の存在の方が、俺はよっぽど信じられた。  川沿いを行くランナーの波に乗って、いつものルートをハイペースで駆け抜ける。  ゴールはいつものブックストア。  その日の気分の本を選び、店の向かいにあるカフェ「サンタルチア」でページを(めく)りながらコスタリカ産のコーヒーを頼むルーティン。  これを半年間、毎日続けている。  それにしても人は何のために走るのだろう。  そうか。きっと人生と同じ。  孤独の中でゴールまで走りきれるように。
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