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ピンチ!? 夢見る魔法少女のままでいられない?
「バッバッバッ(笑い声)! ネットワーク障害を起こして、スマートフォンなどを使えなくしてやる!!」
人ならざる者‥怪人―バッド・エンドロル―は高らかに言い放ち、街中で暴れ回っていた。
人智を越えた力を持った怪人に警察などのただの人間では手に負えず、人々は悲鳴をあげては為す術もなく逃げ回っていた。
そこへ――
「そこまでよ、バッド・エンドロル!」
天から声が響いた。
「この声は! 憎き魔法少女か!?」
怪人は声がした方向へと顔を向けると、ビルの屋上に三人の少女の姿が見えた。
「ドリーミング・モーニング・コーリング! 今日も元気にバッチグー!!」
-きゅるるる♪(キュートなSE音)
「夢見る恋する想いは爆ぜるんるん♪」
-ピロピロ~ん♪(キラキラなSE音)
「魔法少女マジカルスタースプラッシュ!!」
-ドッカーン♪(大爆発なSE音)
「「「見参!!!」」」
少女たちはお決まりのキャッチコピーを叫び、ポーズを取ると、七色の光が周りの空間を包んでいく。
やがて、まばゆい光が弾けると、そこには――
真ん中に居た少女だけが、如何にもに魔法少女なコスチュームを身に纏っていたのである。
「ん?」
両隣の少女たちは学園の制服のまま。
「ちょっい待って‥‥なんで変身してないの?」
と、ウサギの耳のようなツインテールの少女‥“卯佐原うさみ”(魔法少女名‥バーニィ・キャロット)が目を点にしつつ訊ねた。
「そ、そんなの解らないわよ!?」
三人の中で一番が髪の短いボーイッシュな“辰川冴子”(ドラゴン・ファング)が声を荒げては答えて、
「いつもの通りにしたんですけどね‥‥」
メガネをかけた“未野エクセレント躑躅”(魔法少女名‥シープ・コットン)が落ち着いた口調で言葉を漏らしつつ、首を傾げる。
二人とも変身が出来なかったのか思い当たりがない。
「ま、まさか!? 変身できないのは、もう彼女たちは“少女”ではないからかもしれない」
バーニィ・キャロットの肩に乗っかっていたマスコットキャラ‥‥星を擬人化した生き物(スタダス)が、そう告げた。
「えっ!? あえっ!? ちょっ、そ、それって‥‥」
「ああ、“大人”になってしまったんだ。でも、しょうがない‥‥誰しもが大人の階段を上っていくんだよ‥‥」
「ヒドイよ、さっちゃん(辰川冴子)、つーちゃん(未野躑躅)。私の知らないところで大人になっちゃうなんて」
激しく動揺するバーニィ・キャロットをスタダスがなだめる。
「ちょっと待って! そんな思い当たることなんて、やってないし、知らないし!?」
ドラゴン・ファングこと辰川冴子が顔を真っ赤にして異を唱える。
ボーイッシュな見た目に反して、少々初心であった。
「少し気になっていたけど、ドラゴン・ファング。たしか君の好きな飲み物って、MAXコーヒー(超激甘コーヒ)なのに、今日のお昼に無糖コーヒーを飲んでいたよね。あれって?」
スタダスの鋭いツッコミに冴子の身体が震えてしまった。
「見ていたの!? じ、実は最近、無糖のコーヒーの良さに気づいてしまって‥‥」
告白をした冴子の胸ぐらを掴む、ウサミ。
「なにやってるのよ!? さっちゃん!! 魔法少女が苦いコーヒーを飲むなんて、ピー!!!!を飲んでいるようなもんだよ」
「なんだよ!? ピー!!ってなんだよ!?」
「そんなの魔法少女の口から言わせないでよ!?」
「言っていただろう! さっき!」
混乱と動揺している二人を静止させようと、“シープ・コットン”こと未野エクセレント躑躅が間に入り宥める。
「まあまあ、うさみちゃんも、冴子ちゃんも落ち着いてください」
「そういう、つーちゃんも変身していないのよ! 一体何をして大人になったのよ!?」
「ええっと‥‥私は‥‥」
躑躅の頬が桃色に染まるのをスタダスは見逃さない。
「そういえば、シープ・コットン。二日前に男と仲良さそうに一緒に帰っていたよね。そして人気の無い公園で‥‥」
「きゃあああああああ!? どっ、どうして知っているんですか??」
「君たちの動向は逐一チェックするのも、ボクの役目だからね」
躑躅がスタダスの口を押さえようとする中、ウサミの体の震えが止まらない。
「男子と二人きりで人気の無い公園で‥‥ナ、ナニをしていたの!? まさか‥‥!?」
感情を押し殺した冷淡な口調で語りかける。
「う、うさみちゃんが想像しているようなアダルティなことじゃないよ‥‥。そのキスを‥‥」
「「KkIiSsSs!!」」
と、ウサミと冴子が一緒になって大声をあげてしまった。
「あ、でもキスっていっても、軽く唇に触れただけの‥‥」
「ギガ(バカの最上級表現)やろう! マウスtoマウスのキスは、もうピー!!と同じなんだよ!!」
「だから、ピー!!って言うな!!」と冴子がツッコミを入れるものの、ウサミは止まらない。
「なんなの! みんなして魔法少女にあるまじき行為なんかして‥‥」
「いや、無糖コーヒーぐらい飲むのは普通じゃない?」
「前から思っていたのよ。魔法少女ネーミングでドラゴン・ファングって何? ゲームの必殺技みたいな魔法少女の名前がある? もっとプリティーで乙女チックなのにてしてくれない!!」
「聞けよ、私の話し。というか、そこのヒトデのような奴(スタダス)に本名からもじって名付けられたんだから、しょうがないでしょうに!」
「今すぐ役所に行って、もっと可愛らしい名前に改名してきてよ!!」
「なんでだよ!!」
再びうさみと冴子がヒートアップしてきたので、また躑躅が止めに入る。
「うさみちゃん、落ち着いてよ!」
「ていうか、髑髏ちゃんが、もっっっっっとも魔法少女どころか学生‥‥いいえ、人間として、あるまじき不埒な行為をしているのよ!?」
「ちょっと待って! 今、私の名前の漢字表記が変だったよ! だったら、キャッチフレーズに“夢見る恋する~”なんて言わせないでよ! 魔法少女に恋は許さるものでしょう! というかキスぐらいなら学生でもOKだと思います」
「恋と愛は別物なのよ!!」
怒髪天を衝くウサミの頭を冴子が掴む。
「さっきから一方的に言ってくれてさ‥‥。私からも言わせて貰うけど『見参!』って何よ? それこそ魔法少女の相応しくないワードじゃない!?」
「そ、それは‥‥『人参』と似た字面だし、か、可愛いと思わない?」
「超「ダサい」わ」
冴子と躑躅の無慈悲なツッコミに、なにかが切れる音がした。
「なによおおおおおおお!!」
うさみは魔法少女にらしからぬ雄叫びをあげてしまった。
「お、逆ギレか? やるか!!」
「やってんやんよ!?」
お互い胸ぐらを掴み合い、肉体言語で語り合い始めた。
~CM入り~
『ここは、エデンかアルカディアか、それともニライカナイか。数多の理想郷の最高峰‥“アストラルランド”。貴方様と大切な方を星々が誘います』
~CM明け~
かつて魔法少女マジカルスタースプラッシュと呼ばれた三人の少女がボロボロになって地に倒れていた。
辛うじて生きてはいるが、もう起き上がれる力も無い。
それはまるで星屑の残骸のようだった。
それを遠目で傍観していた、怪人(バッド・エンドロル)とスタダス。
「似た者同士の争いって醜いね‥‥」
「そだね‥‥」
虚しさを感じつつ、今回の騒動の幕を下ろしたのであった。
-終-
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