外部特待生の受難

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外部特待生の受難

4月、新生活が始まった。 ただしそれは俺だけ。なぜならこのエスカレーター式の金持ち男子校、幼稚園から一貫して通う生徒が大多数なのだ。そんな中、多大な努力が認められ外部特待生としてこの開北学園に通うことが叶ったのが俺なわけで。 ──そこから何ヶ月か経って分かったことがある。 この学園はちょっと感覚が可笑しい。 全寮制で、長期休暇以外はずっとここに閉じ込められているようなものだから可笑しくなるのも頷けるのだが、可笑しくなってしまったのはなんと恋愛対象。 ここに通う生徒の大半がゲイとバイで、一割もないくらいがノンケというそりゃ逆だろうよと言いたくなるような構成。俺のような外部からやってきた編入生はちょっと着いていけない。オマケに生徒会役員や風紀なんていう役職を持つ生徒は人気が高く、親衛隊がいる。親衛隊とは言わばファンクラブのことである。規模は人によって様々だが、生徒会の親衛隊は数がとてつもないと、特待生の俺ですら聞いたことがある。おい、男子校だぞ。 「おはよう、結城仁くん」 まだ慣れない学園生活だが、クラスはSからFまでに分けられている。 もちろん学力行使でこの学園に入った俺は1ーSクラス。そこから下に行くにつれて成績は下がっていくとか。Fクラスは問題児が集まっていると聞いたことがある。 そしてたった今さりげなく俺の紹介まで済ませてくれたこの真面目そうな小柄な眼鏡は我がクラスの委員長─石田千尋。フルネーム呼びが彼の鉄則らしいが、なかなかよそよそしいので俺はガッカリしている。だってよく見るとこの子ちょっとかわいい顔してんだもん。……俺もちょっと感覚が狂ってきている気がして恐ろしい。 「ああ、おはよう委員長」 かく言う俺はというと、最早名前で呼んであげていないし文句は言えないのだが。…あ、台詞が俺の心の中とだいぶ違うなあなんて思わないで欲しい。キャラ作りをしているんだから仕方がないことなのだ。なるべく誰にも目をつけられないようなキャラを目指していたところ、優しくて運動の出来る爽やかなキャラが定着したのである。小・中と、沢山人と関わってきたから自分の顔が他より良いなんてことは嫌でもわかったので、どうせなら利用してやろうとこの顔の良さを活かしてモテまくった。 だがそれも終わりだ、と、思っていた。だってここ男子校だし。 ところがそうもいかなかった。いや、モテたくなかったわけじゃないんだけど。モテたいって思うのは女子からに限るわけじゃないですか。 その後は最初に言った通り。 俺はちょっととはいえイケメンだからこの学園のホモ共にとっちゃ大好物らしい(ナルシストなわけじゃない)。あれやこれやと気がついた頃には親衛隊ができていた。親衛隊って対象者のサインがあって成立するものらしいんだが、俺、承認した覚えないんだよね。え、ほんとになんで? 「よ」 「おー、おはよう柊」 よ、って。 もっとほかに言うことねえんか。とは思ったけどまあ俺の中じゃマブだから許してやる。この愛想のないクール系イケメン、柊慎吾は見た目じゃこんな「周りなんて興味ねえよ」的な所謂一匹狼タイプであるが、実際には口数が少ないただの腐れ野郎です。どうやら俺に心を許したらしくたまに腐腐腐トークをぶちかまされるようになった。周りから見てまあまあ顔がいいふたりがそんな話してるなんて知られたら前代未聞すぎるだろ。興味は無いとちゃんと本人に言ったこともあるがかわされた次第である。解せん。柊がせっかく本音で話してくれるようになったんだからと、俺もこの爽やかキャラを柊の前だけでは崩せるようになりつつある。 「…今日、転校生が来るらしい」 「え?転校生?あっそ、どうでもいいけど境遇は俺と同じようなもんだし同情する」 「馬鹿かお前」 「は?」 「ここ来て転校生なんて一択だろうが。毬藻みたいな頭したダサ眼鏡野郎だよ」 「お前が馬鹿だろ」 なんだそのバケモン。 謎にイケメンの多いこの学園にそんなモジャが現れてたまるか。
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