森の中で

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「おはよう」  森の入り口に立つと、元気な声であいさつをします。 『     』  雪の中に埋もれるように、しーんと静まり返った森の中。  物音ひとつしません。 「おかしいなあ」  イブは首をかしげます。  今は冬眠の季節で、森の生き物の大半は眠っています。  けれど、中には冬眠せずに、森の中を駆け回っている生き物もいるのです。  冬の間はわずかながら、うさぎや鹿や樹木たちがあいさつを返してくれるのです。 「おはよう」  もう一度、さっきよりも大きな声であいさつをしました。 『     』  それでも、返事は返ってきません。 「みんな、寝ているのかなあ?」  十何年ぶりの大雪。  そのため交通機関も麻痺しています。  会社のはずのパパも、終業式のはずのイブの幼稚園もお休みです。  マフラーと帽子と耳当てと手袋と、たくさん着込んできたイブでさえも、寒さで鼻の頭が真っ赤です。  動物たちも寒くて、外に出られずに、寝床で休んでいるのかもしれません。  イブは仕方なく、誰の声も聞かないまま、森の中へと入っていきました。
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