森の中で

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 さく、さく、さくっ。  鬱蒼とおい茂る木立の中を、迷うことなく進んでいきます。  大きな森は、迷いやすいので人間はあまり入ってきたがりません。  けれど、イブは森に導かれるように歩いていきます。迷ったことなど一度もありません。  動物たちが、樹木たちが道を教えてくれるからです。  話すことのできない生き物たちと心話が結べる。  でもこれは、誰にも内緒なのです。  それが森との約束。  イブは森が大好きなので、約束を破ったりしません。  さく、さく、さくっ。  しばらく歩いていくと、目印になっている樫の木が見えてきました。  齢五百年は越えようかというくらいの大きな木です。  けれど樫の木は笑って言います。 『わたしなんかまだまだ若造だよ。この森の中には、もっと長生きをしている仲間がいるからね』  と。  樫の木の言う通り、森の奥には齢千年を超え、ご神木として祀られている銀杏の木があります。  樫の木は色々なことを教えてくれ、話を聞いていると、時間が経つのも忘れてしまいます。イブの大好きな樹木の一つなのです。  目の前にイブが見えているはずなのに、樫の木はしゃべりません。  どんな時でも、姿を見かけると、陽気にあいさつをしてくれるのですが、今日はどうしたのでしょうか?  沈黙を保ったままです。  イブは不思議に思いながら歩いていきます。
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