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『わたしたちが嫌うのは流れる血だよ』
「血? どうして? イブも血が出るよ。この前転んでけがをしたの」
『そうじゃないよ。血は生き物なら誰でも持っているもの。命をつなぐ大事なものだよ。そうではなく、争いで流れる血のことだよ』
「争い?」
『イブは戦争を知らないだろう?』
「知らない」
『戦争は無用な血を流す。罪のない人間が命を失う。昔、この国も戦争をしたんだよ。国同士の喧嘩だ。負けてしまったがね。争いは憎しみや悲しみや恨み、さまざまな負の感情をまき散らす。それがわたしたちには、身を切られるよりつらいのだよ。この世のすべてが繋がっている。無用な血が流れるだけで、わたしたちの命が蝕まれる。今はこの国も平和になって、ずいぶんと生きやすくはなったがね』
「イブは争ったりしないよ。けんかしない。みんなと仲良くするよ。森のみんなを悲しませたくないもん」
『そうだね。イブならきっと大丈夫だ』
ごく最近のことでした。
樫の木の下に座り、冬のほんのり暖かな陽射しを浴びながら、この話をしたのです。
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