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約束
「まあ。ユノー様、お美しいですよ」
よくわからない賛辞を受けて、俺は複雑な思いになる。
男の子に「美しい」って、喜ぶのかなぁ。これも異星人文化なのか。
ベテラン侍女風なおばさん、メテリさんに、正装という豪奢な民族衣装(?)を着せられながら、俺はマネキンと化していた。
数人の侍女さんたち――皇族に仕えるから"女官"っていうのかもしんないけど――に取り囲まれたまま、数時間。
地球に持ち込む衣装の準備、とやらをしている。もう何着、着替えたやら。そんなの適当で良くない? 俺、疲れたよ。
あの後。
"兄ちゃん"皇子が、地球に行くって言った後。
俺は、「俺も連れていけ」と、しつこく食い下がり、渋る"兄ちゃん"からいくつかの話を聞き出した。
ユノーは知ってる事らしいが、昔、ユノーたちの父親の即位前、皇帝位を巡ってお家騒動があったらしい。
(うわぁ、やっぱそういうのってあるんだ?)
皇位を狙った弟、つまり叔父さんは敗け、本来なら処刑だったところを時の母后の嘆願で助命。無力化された上で、地球に流されたとか。
(ちょっ。それって地球を流刑地扱いしてない?)
すっかり叔父さんサイドの一派は大人しくなっていた。はずなのに、最近、また怪しい動きが出てきてたらしく。
"兄ちゃん"の外遊の一環には、その様子を探る任務も含まれてたらしい。
そんな折の毒物事件。
実行犯を泳がせたところ、地球に逃げ込んだという。
秘密裏に協定を結んでいる友好星、地球。
(いつの間にそんなことに! 民間人は知らないぞ)
FBIってわけじゃないけど、MIBってわけでもないけど、とにかく地球の秘密機関の協力で、あっちでいろいろ押さえてあるとか。
(すごいぞ。さすが、やるじゃないか地球!)
その件で、兄ちゃんは地球に赴く。
と、いうのが一連の流れだそうで。
気になる点、多々あるものの、俺は"兄ちゃん"から「より危険かも知れないから、自分の傍から離れないように」って約束つきで、地球同行の権利を得た。
あれ? でもその話だと、毒ってユノーだけを狙ったわけじゃなくて、まとめて狙われたとか、あるいは狙われてたのは"兄ちゃん"、とかいう線も出てこない?
"兄ちゃん"皇子の傍って、本当に安全?
…………。
か、考えるの、よそう。
もう約束しちゃったし、地球には行きたいし。
(ユノーが危なげなのも、なんかわかるしな。)
姿見鏡に映る、ユノー君の全身を確認する。
上から下までストンとつながった、中東風の衣服に身を包まれた11歳のユノー君は、小柄で華奢だ。
声変わりもまだらしく、声は高め。綺麗な顔立ちに、大きな瞳。形の良い鼻と愛らしい唇。柔らかそうな白い肌。
いつも後ろで一括りにしている金髪を、こんな風に肩におろしていると、普通に女の子見えする。というか、美少女の域だ。ちゃんと男の子なのに。
思いっきり子どもだし、兄貴が心配するのも無理はない。あの近距離っぷりはどうかと思うが。
う――ん。どうしよ、これ。
この身体じゃ、大人に襲われたらひとたまりもなさそう。17歳の俺が恋しい。
まあ、あっちなら元々狙われるような原因もないけどね!
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