29人が本棚に入れています
本棚に追加
翌週、いつものようにカフェを訪れた。
身の内に生まれた想いについて述べ、見合いを断ったところ、大叔母は鷹揚に頷き、やはりカフェへ向かうよう指示したのだ。
見合い相手は、兄妹でカフェを切り盛りしている二十七歳。
特技はお菓子作り。
移り気なところがあり、新しいことを試してみたくなる。店に出す菓子はその日の気分で決定し、同じものを求められても困ってしまう、大雑把な性格。
タイラーとは真逆の性質だ。
――だから貴方に合うと思うのよ。
どうやら最初から、相手は彼女だったらしい。
――あの娘には、見合いの相手を向かわせると伝えています。勿論、受ける受けないは彼女の自由。相手が誰とも告げていないわ。貴方次第よ。
大叔母の激励を胸に、タイラーは扉を開く。
「いらっしゃいませ、ミスター」
「今日は、エレーヌ・オーモンの紹介で参りました。私の名は、タイラー・カッセルです。貴女の名を教えていただけませんか」
彼女は瞠目し、ほんの少しだけ沈黙する。
やがて、はにかんだ笑みを浮かべ、頬を染め、囁くように答えた。
「サラ・メグレです」
最初のコメントを投稿しよう!