ミスター・パーフェクトの完璧ではない婚活

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 脳内でシミュレートしていると、盆を持った店員がタイラーの前にカップを置いた。  皿に乗ったブラウニーは三切れ。真っ白いホイップクリームが添えられており、新雪のような美しさを演出していた。  しっとりほろ苦い生地には、クルミと砕いたチョコレートが介在している。甘みを抑えたホイップクリームをたっぷりとつけ、くちへ運ぶ。美味しい。  飲む、食べる、飲む、食べる。  繰り返すうちに、ドアベルの音が響いた。  顔をあげると、黒髪を短く刈りこんだ女性の姿。彼女が本日の相手、メラニー・ヒル嬢だろう。 「ハイ、タイラー?」 「はじめまして、タイラー・カッセルです」  歩いてきたメラニーは、机上の皿を見て驚いたように目を開く。 「これは、貴方が?」 「申し訳ない、先に失礼して」 「ああ、いいの。責めてるわけじゃないし。私は結構。甘いものは好まないから」  言い放った彼女は、ステファニーとは対照的にスレンダーな身体つきをしていた。  脂肪も贅肉もないが、筋肉質にも見えない。病的に痩せているというわけではない証拠に、目にとても力がある。  荒々しい態度と圧の強い言葉使い。性差を論じるわけではないが、雄々しい印象を持つ女性だ。  印象に違わず、メラニーは己の考えを強く持っていた。  昨今強くなってきた女性躍進を掲げる派閥の会長補佐を務めているらしく、社会における男女比について論じている。  タイラー自身は女性が仕事をすることに対して、賛同も反対もない。課せられたことを遂行できるのであれば、そこに性別は介入しないと考えている。  王女の近衛を務めているのは女性騎士だ。体力面の問題もあるが、男に勝るとも劣らない活躍で今では誰からも認められている。  だが、メラニーの弁は「女にも立場を与えつつ、か弱い女性に責任を押しつけるようなことはするべきではない」というよくわからないものであり、タイラーは異を唱えた。 「仕事は仕事です。そこに性別は関係がないでしょう」 「これだから男は駄目なのよ」 「貴女は先ほどから何度もそうおっしゃいますが、平等というからには『だから女は駄目なのだ』という弁も認めるべきでは。我々が言葉を交わし始めてから一時間が経過していますが、貴女はことさらに優位に立とうとし、私の言葉を遮る。まず否定から入り、そうして己の考えを押しつけながら、さも自分は弁が立つのだといわんばかりの態度ですが、いささか要領を得ません」  タイラーが言うと、メラニーは頬を引きつらせ、侮蔑めいた眼差しを向けた。
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