ミスター・パーフェクトの完璧ではない婚活

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「オーモン夫人の縁戚の中でも、特に優秀で完璧な男だと聞いてたけど、仕事はともかく女の扱いはヘタね。貴方の考えで他人をコントロールしようだなんて傲慢だわ」 「他人をコントロールしているのは、貴女も同じではないでしょうか。なるほど。大叔母は私と貴女が似ているから娶せようとなさったのかもしれませんね」 「あんたみたいな支配欲にまみれた男は御免よ」  メラニーが立ち上がり入口へ向かう。  その背中に「メラニー嬢、会計は」と問うと、振り返りった彼女は「最低な男」と呪詛のように吐き、紙幣を一枚テーブルに叩きつけて帰って行った。  まったく足りていないのだが、金額の計算もできないのか。  いやしかしそういえば、先の会話では金銭格差の話もあり、「だから男は女に金を出させるべきではない」と言いたかったのかもしれない。今日の見合いも、女性側は優遇されるべきという考えか。  だが見合いは決裂したのだから、ここは彼女の言うところの平等性を鑑みて、各自が支払いを持つべきではないだろうか。  あとで請求書を送ろうと思いながら、席を立つ。  迷惑をかけてしまったぶんの金額を上乗せしたタイラーに、店員は小さな袋を差し出した。 「これは?」 「サービスです」 「迷惑をかけたのはこちらです。あの女性は誇張して吹聴するでしょう。となれば、店の評判を落としかねない」 「あら。私なら、むしろ見物に行きますわ」  意外なことを言われた気がして眉を(ひそ)めるタイラーに、女性店員は笑みを浮かべる。 「狭い店ですので、申し訳ありませんが聞こえてしまいました。ああいった方は、周囲のひとも性格を把握していると思うんです。同士の方もいれば、そうでない方もいらっしゃるでしょう。後者の方は、どんな店で何をしたのか、興味本位で見たくなってしまうのではないかしら。私なら気になりますもの。絶対行きます」  ふっと息を吐き出して小さく笑う。それは「店員」という立場には相応しくない、いち個人の顔であり、タイラーは虚を突かれたような気がした。  今の今まで忘れて――いや、意識していなかったこと。  この店員も、一人の人間なのだ。 「ミスター。もしも、ほんのわずかにでも罪悪感があるのでしたら、またいらしてください。これに懲りず」  笑みに押されるように、タイラーは一礼した。
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