ミスター・パーフェクトの完璧ではない婚活

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 罪悪感の有無にかかわらず、それからもタイラーは毎週のようにカフェを訪れることになった。  見合いである。  大叔母の人脈は底が知れない。同年代だけにとどまらず、卒業を控えた学生や、夫に先立たれた若き未亡人など。一体どこから見繕ってくるのかわからない女性たちと逢瀬を重ねる。  いや、逢瀬といっていいのだろうか。  学生は就職に関する話題、進路の悩み。王宮職員のタイラーはそういったことに詳しい。  悩み相談といえば、未亡人らもそうだろうか。寡婦となった彼女たちの生活にかかわる保障などを説明し、感謝されることもしばしばだ。  場所は常にカフェ「シャノワール」を使っており、半年も経つと、タイラーは来店するだけで自動的に珈琲が提供される常連になってしまった。  あえて告げたことはないが、菓子を好むことも知られてしまっているのだろう。一度として同じものが並ぶことはなく、それでいてひそかに気に入った菓子があると、なぜか退店時に袋に入って手渡される。  代金は決して受け取ってはくれない。「サービスです」と言われて終わりだ。  毎週同時刻に決まって訪れ、それでいて違う女性と会っている。  世間一般的にみれば不埒な男に対しても優しく接する彼女は、店員の鑑といえるだろう。  彼女の振る舞いに敬意を抱いたタイラーは、休日以外にも店の前を通るようになり、定休日があることを知り、また夕方になるとディナータイムを取っていることも知った。小さな窓から伺う店内では彼女の姿と、もうひとり男性の姿も見かけた。  彼も店の従業員だという。どうやらエレーヌは、カフェを出店するにあたっての支援者だったらしく、内情に詳しい。  忙しい時間帯は二人で給仕に立っているのか。並んでいる姿を見た途端、なぜか店内に足を踏み入れることに躊躇(ためら)いを覚えた。  食事をしようと決めたはずなのに、その計画が遂行できないのは問題だ。  もっといえば休日以外に訪れるというルーチンを崩すのも、いかがなものか。
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