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「どうしたものだろうか」
「いや、どうしたもなにも、まさかそんなことになっているとは」
「そんなこととは?」
「あのミスター・パーフェクトが、ついに女に狂ったって噂は本当だったんだな、と」
考えあぐねたタイラーが友人に相談を持ちかけたところ、とんでもない答えが返ってきた。一体どこの噂だろうか。
彼は王宮の別部署に勤めている、学生時代からの友人である。
タイラーの愚直な性格をよく把握しており、女性に縁がなさすぎるところを心配もしていた。
「おまえがいつもと違う道を通っているって、話題になったんだ」
「そんなことが話題になるのか」
「なるだろ。同じ道を同じ時間に通り続けていた奴が、何を言ってるんだ」
「そうか」
「毎週カフェに通っているって話も出て」
なるほど、そこで毎週違う女性と会っているところを見られ、女狂いの話題になったわけか。
得心がいくタイラーに、友人は意外な言葉を続けた。
「カフェの店員に入れ込んでいた、と」
「は……?」
「だってそういうことなんだろ。言ったじゃないか。同僚の男が恋人なのかどうか気になって、会うのが怖いって」
いや、違う。ただ単にどんな関係なのかが気になっただけで。
気に、なった……?
誰が、誰を、何故。
「べつに、いつ店に行ったっていいだろ。エレーヌ夫人が斡旋する悩み相談会のあと、居残って話してもいいわけで」
「何を話せというんだ」
「聞きたいこととか知りたいこととか、ないのか?」
同僚だという男性との関係は。
そもそも年齢は。
なによりも。
「……名は、なんというのか」
「そこからか」
「知るわけがないだろう」
大叔母の指示で十数人の女性と顔を合わせたが、ずっと変わらない顔がひとつあった。一定時間だけ、ほぼ言葉も交わさず、けれどいつも同じ空間に存在していた女性。
週に一度では足りない。もう少しだけでいい。共にする時間が欲しい。
曖昧で、不確かな、完璧には程遠いこの感情は――
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