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タイラー・カッセルを評する言葉はたくさんあるが、それらすべてを含めて彼は、ミスター・パーフェクトと呼ばれている。
二十八歳。王宮のエリート事務官。
勤勉、実直、嘘をつかず、世辞も言わない。一分の隙もなく、小さな不正も見逃さないのはいいことだが、融通がきかないため煙たがられている部分もなくはない。
彼は、己で定めた事象を滞りなく遂行することに終始している。起床から就寝に至るまで、すべての時間配分を決めて実行。冷たい印象を持つ硬い表情と相まって、機械のようだと囁かれたりもするが、本人は気にする様子はない。
そのタイラーは休日の昼間、地図を片手に商業区を訪れていた。目指す八番通りは、馬車が入るにはやや狭い場所に位置しているため徒歩での移動。
指定された店は、すぐに見つかった。
通りから見えるように下がっている猫をかたどった看板には、流麗な書体で「シャノワール」と金色で刻印されており、手元のメモと一致する
扉を開くと、まず感じたのは珈琲の香りだった。
こぢんまりとしたカフェ、座席数も少ない。窓際に設置された対面式のテーブルがふたつある以外は、小さな個人席のみ。
タイラーはまっすぐに窓際席へ向かった。
入口に背を向ける形で女性が座っている。おそらく彼女が目的の人物だろう。
「失礼。ステファニー・ローゼンさんで間違いありませんか?」
「では貴方が、エレーヌ様の?」
「はい、大叔母の紹介で参りました。タイラー・カッセルです」
告げながら彼女の前に座り、テーブルを挟んで向かい合う。
「定刻となりましたので、見合いを始めさせていただきたいと思います」
会議でも始めるような切り出しで、タイラーは今日の目的をくちにした。
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