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陽が傾き始めた頃、小さな町の商店街の喫茶店で仲間と談笑していた年配の農家の男性のスマホが音を発した。
ピコピコとけたたましく鳴るスマホを手に取り、アプリを起動する。その男性は頭をかきながら、やや若い農家仲間に尋ねた。
「なあ、これは罠が作動したって知らせか?」
30代の男がその画面をのぞき込んで、我が意を得たりという口調で答える。
「そうそう! どうです、山田さん。俺が言った通り便利でしょ?」
山田と呼ばれた年配の農家は感心した表情で言う。
「いやあ、まったく便利な世の中になったもんだ。10キロも先の罠にかかったかどうか、分かるなんてな」
「さっそく行ってみましょう。今ならギリギリ日が暮れる前に着ける。田中さん!」
若い男が中年の仲間に声をかける。
「田中さん、確か猟友会でしたよね? 念のため猟銃持って一緒に来てもらえませんか?」
田中はカウンター席から立ち上がりながらうなずく。
「おお、いいとも。途中で俺の家に寄ってくれりゃ、ライフル出すよ」
山田が上着のポケットから車のキーを取り出して立ち上がる。
「よし、俺の車で行こう。悪いな二人とも、俺の畑の事に付き合わせちまって」
田中が笑って答える。
「いいって事よ。お互い様だ。俺の畑も獣害が深刻でな。他人事じゃねえ」
そして3人は山田の四輪駆動の自動車に乗って、冬本番に差し掛かった信州高原の道を山際の農地まで走った。
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