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結婚の条件
――十歳になる誕生日の日のことだった。
「いいか、由衣子。花森家の長女として生まれたお前の役目は家柄のいい男のもとへ嫁ぐことだ。先祖より続くこの花森自動車を業界一位へと押し上げ、他社の追随を許さない大企業へと発展させる。お前も花森家の人間ならばその志を強く持ち、そのためとなる行動をしなさい。わかったな」
赤色の生地に牡丹の花と蝶の模様が描かれた着物姿で祖父の部屋を訪れた由衣子はこの日、花森家における自分の役目を言い渡された。
(家柄のいい男って? 一位になると金メダルがもらえるのかな。ツイズイってどういう意味だろう……)
祖父の言っていることの半分は理解できなかったけれど、ひとつだけはっきりとわかったことがある。それは、大人になったら祖父の決めた相手と結婚をしなければならないということ。
由衣子は自分に与えられた役目をすんなりと受け入れて、大きな声で返事をした。
「はい。おじい様」
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