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和食が嫌いと言っていたわりには料亭の食事はしっかりと食べていたし、味の感想も丁寧に述べていた。嫌いなんて素振りはなかったのに。
もしかしてずっと演技をしていたのかもしれない。
両家の親が席を外して由衣子とふたりきりになった途端にまるで別人のようになった綾人の態度にふとそんな疑問が生まれる。
「食べないの?」
綾人に声を掛けられて由衣子はハッと我に返った。綾人のお皿はもう空になっている。
「食べないならそっちも俺が食べていい?」
「あ、はい、どうぞ」
由衣子は食べかけのパンケーキが載ったお皿を前にずらして綾人に近付ける。それに手を伸ばして引き寄せた綾人は、再びパンケーキを口に運び始めた。
甘そうなコーヒーを飲んで生クリームたっぷりのパンケーキを食べる綾人を見ながら、由衣子はそっと紅茶を喉に流し込む。
午後二時を過ぎた店内はちょうどおやつ時なのかほどよく混み合っていて、席がほとんど埋まっている。
銀座という土地にありながらも店内はそれほど高級感を前面に押し出しているわけではなく、明るく開放的な雰囲気のある店なので誰でも気軽に入れそうだ。メニュー表もちらっと見たけれど、値段もそこまで高額というわけでもない。
そのせいか客層も若い女性やカップルが多く、その中で明らかに由衣子と綾人は浮いていた。
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