結婚の条件

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おそらく服装のせいだろう。 いかにも高級そうな着物姿の由衣子と、仕立てのよさそうなスリーピーススーツを華麗に着こなす綾人。 そんなふたりが店内の客の視線を集めないわけがなく、先ほどからずっと好奇の眼差しを向けられている。 とても居心地が悪い由衣子だけれど、一方の綾人はまったく気にしていないようだ。 「あー、うまかった」 パンケーキを二枚も食べて満足したのか、綾人は長い足を前に投げ出すとソファの背もたれにゆったりと背をあずけた。完全にリラックス状態だ。 そんな綾人の唇の端になにか白いものがついていることに気が付いた由衣子はすかさず声を掛ける。 「綾人さん。口の横に生クリームがついていますよ」 「え、どこ?」 綾人は親指で唇に触れると、生クリームのついた指を舌でぺろっと舐めた。 「取れた?」 「はい、取れました」 由衣子はテーブルにあった紙ナフキンを手に取り綾人に渡す。これで指を拭いてもらおうと思ったのだ。 受け取った綾人は「さんきゅ」と告げて指を拭くと、紙ナフキンをくしゃりと丸めてテーブルに置いた。 そんなやり取りのあとで由衣子はふと気が付く。 (男の人とこうしてふたりきりでお茶をするの初めてかも……) 子供の頃から祖父の決めた相手と結婚をすることが決まっていた由衣子は、異性にそれほど興味がなく……というよりも興味を持つだけ無駄だと思っていた。 祖父から男女交際を固く禁じられていたし、そもそも小学校から大学までずっと女子校だったので出会いすらなかったのだ。
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