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「もう帰るんですか」
「帰るよ。一時間くらい時間潰したんだからいいだろ」
確かにそれくらいの時間は経過しているけれど、まだあまりお喋りができていない。
綾人はただパンケーキを食べていただけだし、由衣子はそんな綾人を見ていただけ。これから会話を楽しもうと思っていたのに。
「先ほど、親睦を深めるよう言われましたけど、私たちはまだお互いのことをあまり知らない気がします」
由衣子はもっと綾人と話がしたかった。
まだこの見合いの手ごたえを感じていない。ここで解散になってしまったらよい返事はもらえない気がする。
なにしろ由衣子はこの見合いに命をかけている……というのはやや大げさだけどそれくらい本気だ。
この見合いを必ず成功させるためにも綾人に気に入ってもらわなければならないし、そのためにはここからの時間が大切だと考えていたのに。
「悪いけど、俺はこの見合い断るから」
「え」
不意に聞えた綾人の声に由衣子はぽかんと口を開けてしまう。
断る……という言葉が頭の中で再生される。
もしかして、ここまでの時間のどこかで綾人に嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
(どうしよう……。パンケーキを残したからかな。それとも、三食スイーツでもいいと言った綾人さんに胃もたれしそうですねなんて言ったから? ここは綾人さんに合わせて甘党のふりをするべきだったんだ……)
気が付かない間におかしていた自身の失態に由衣子はがっくりと肩を落とした。
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