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「それは気が付くに決まっていますよ、由衣子さん」
そう言葉を発したのは運転席でハンドルを握る零士だった。そのままするすると言葉を続ける。
「仕事を早く終えて帰宅する途中にあの道を通ったら、由衣子さんの姿を見つけたので。なにやら男性と親しそうに話をされているのを見た綾人さんが私に車を停めるように言って、車内からずっと由衣子さんたちのやり取りをじーっと見つめていましたから」
「おい、零士。てめぇ、余計なこと言うな」
後部座席に座る綾人が足で運転席のシートに蹴りを入れた。けれど、零士は気にすることなく続きを話し始める。
「しばらく大人しく見守っていましたけど、このままだと由衣子さんを取られてしまうのではないかと不安になって、慌てて車から飛び出していかれましたもんね」
「てめぇ、ありもしないこと言ってんじゃねぇぞ。クビにされてもいいのか」
「その権限をお持ちなのは綾人さんではなくてあなたのおじい様です。私は白濱家に雇われていますので、残念ですがあなたの一存で私をクビにすることはできません」
「……お前、マジでムカつくな」
綾人は足を組み直すと、窓の外に視線を投げた。そんな綾人の横顔を由衣子はまじまじと見つめる。
「綾人さん。洋一郎さんに私を取られると思ったんですか? だからさっき私のことを〝この女は俺の〟と言ったんですね」
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