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「もしかして綾人さんには本命の女性がいらっしゃるのですか?」
由衣子は気になって尋ねてみた。すると、綾人がすぐに首を横に振って答える。
「別にいないけど」
「それなのになぜお見合いをすべて断っているのですか」
「そんなの聞いてどうするの?」
「いえ、ただ気になっただけです」
ずっと見合いを断り続けているのにはなにか特別な理由があるのだろうと思った由衣子だけれど、どうやらそうでもないらしい。
「見合いを断る理由か……」
綾人はなにかを考えているようにしばらく黙ったあとでのんびりとした口調で話し始めた。
「相手の女性が俺には合わない。いつもそう答えているけどそれは表向きの理由で、本当は結婚するのが面倒なだけ」
「面倒?」
「そ。面倒くさい。あんただってまだ大学卒業したばかりだから二十二だろ」
「いえ、二十三です。先週、誕生日を迎えました」
「どっちでもいいけど、その歳で結婚なんてしていいのかよ。同じ年頃のやつらは独り身の自由を満喫してるぜ。それなのにその若さで家庭に縛られて、虚しいと思わないの?」
「虚しい……」
そんなことを考えたことは一度もなかった。
子供の頃から祖父に言われ続けていたように、家柄のいい男のもとに嫁ぐことが由衣子の役目だと思って生きてきたから。
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