嫉妬と優しさ

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「うそ……」 そういえば、その存在を忘れていた。 もともと不順だったこともあるし、最近は綾人との同居生活でバタバタしていたせいもあって、生理のことがすっかり頭から抜けていたのだ。 これはもう女性として失格である。 「どうしよう……」 さらに困ったことにナプキンがない。持ってくるのを忘れてしまった。 綾人の家にはおそらく……というよりも絶対に生理用のナプキンなんてものは置いていないだろう。 (でも、もしかしたら奇跡的にあるかも……) そんなわずかな期待を込めて、由衣子は頭上部分に備え付けられてある棚を開けて確認してみる。が、やはりあるはずなかった。 いや、あったらあったで女性しか使わないようなものがなぜ綾人の自宅にあるのかものすごく気になってしまうから、なくてよかったのかもしれない……。 「おーい、大丈夫か」 不意にトイレの扉がトントンと叩かれて綾人の声がした。 由衣子は思わず体がビクッと跳ねてしまう。 どうやら綾人は由衣子がなかなかトイレから戻らないので気になったらしい。 「やっぱ腹痛いの?」 「いえ、大丈夫です」 そう答えてみたものの、少しも大丈夫な状況ではない。お腹は痛いし、ナプキンは持っていないし、緊急事態だ。 けれど、このピンチを男性である綾人に伝えるのはさすがにためらってしまう。 それでもいつまでもこうしてトイレにこもっているわけにもいかない。
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