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ケーキを落としてしまったときもそうだったけれど、こんなときの不意の優しさはやめてほしい。もっと泣きたくなる。
「とりあえず横になっとけ」
そんな言葉のあとで由衣子の体がふわっと持ち上がった。綾人が由衣子を抱き上げたのだ。
「あ、綾人さん⁉」
いわゆるお姫様抱っこをされた由衣子は驚いてしまう。そんな由衣子のことを気にする様子もなく、綾人はすたすたと廊下を進み自分の寝室に向かった。
ふんわりと金木犀の香りが漂う室内に入ると、大きくてふかふかの高級ベッドの上に由衣子はそっと寝かされた。が、すぐに慌てて声をあげる。
「ま、待ってください。ベッドはまずいです」
「なんで。腹痛いなら寝とけって」
「でも、汚れちゃうといけないから」
「は? 汚れる?」
綾人がきょとんとした顔で由衣子を見つめた。
「汚れるってどうして」
「それは……」
重ねたトイレットペーパーをショーツの上に置いているだけの今の状況ではやはり完全には受け止めきれないだろう。所詮は応急処置でしかないのだ。
このままでは綾人の高級ベッドを赤色で汚してしまうかもしれない。それだけは絶対にやってはならないことだ。
こうなったらもう本当のことを伝えるしかないのかもしれない。ものすごく言いづらいし恥ずかしいけれど、由衣子は覚悟を決めた。
「えっと……、実は、その……生理が、きたのですが……。ナプキンを持っていなくて……」
綾人の顔を見ることができない。
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