ふたりに迫る危機

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白濱家の人間である芳人なら、厳重に管理されているはずの白濱エレクトリックの顧客情報を盗み出すためのなんらかの手段を知っていた可能性もある。 不正に手に入れたそれを怪しげな男に売り飛ばした。 売った相手はおそらく悪質な名簿業者かなにかだろう。芳人から買った顧客情報をさらにどこかへ売り飛ばすつもりなのかもしれない。 「全部、芳人さんの仕業だったんです」 「俺がどうしたって?」 ふと聞こえた声と共に由衣子の手からスマートフォンが消えた。いや、奪い取られた。 振り向くとそこには店内にいたはずの芳人の姿がある。 「綾人の見合い相手の由衣子ちゃんだっけ? いったいどこに電話してたのかな」 芳人は由衣子から奪ったスマートフォンの電源を落として、自身のジャケットのポケットに放り込んだ。 「もしかしてさっきのやり取り見てた?」 「い、いえ、私は、その……」 「見られてたなら仕方ないか。口封じしないとな。俺は綾人を社長の座から引きずり降ろせさえすればよかったんだけど、ちょうどいいや。もっと悪いことしちゃおう。君を傷つけたら綾人はもっと傷つくよな。想像するだけで楽しくなってきた」 由衣子の目の前にいる芳人からは初対面のときのような親しみやすさは感じられない。 鋭く冷たい瞳に見つめられて由衣子は恐怖心から体がすくむ。 逃げなければ。そう思ったけれど、体が動くよりも先に芳人の手が由衣子の細い手首を強く掴んだ。そのまま由衣子を引っ張りながら芳人が歩き出す。
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