好きと気づいて

1/23
2391人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ

好きと気づいて

 * 由衣子が連れてこられたのは都内にあるホテルだった。 芳人は由衣子をベッドに突き飛ばすと、その上に覆い被さる。 「綾人お気に入りの由衣子ちゃんを犯したらあいつはどう思うだろうな」 「私は綾人さんのお気に入りではありません」 「そんなわけないだろ。これまで綾人はすべての見合いを断ってきたんだ。それなのにきみだけは違った。祖父から聞いたが綾人ときみの同居は結婚を前向きに考えるためのものらしいじゃないか。それって綾人がきみを気に入ったから、きみと結婚をする意思が少しはあるってことだろ」 「それは……」 綾人と由衣子の同居は表向きにはそうなっている。けれど、真実は違う。由衣子が綾人と暮らしていたのは気に入られたからではない。 むしろその逆で、由衣子は綾人に嫌われている。昨日、観覧車の中ではっきりとそう告げられたばかりだ。 だからたとえ今この場所で由衣子が芳人にひどいことをされたとしても綾人はどうも思わないだろう。 綾人にとって由衣子はそれほどの価値はないのだから。 「芳人さんはどうしてこんなことを……。綾人さんをどうしたいんですか」 由衣子が問い掛けると芳人はフンと鼻で笑った。 「消えればいいと思ってる。子供の頃から綾人が目障りだった。愛人の子供のくせに経営の才能だかなんだか知らないが祖父に気に入られ、後継者に指名されて……白濱家の長男なのに跡取りになることができなかった俺の惨めな気持ちがきみにわかるか」
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!