好きと気づいて

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由衣子を見下ろす芳人の表情は、ふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑えているように感じた。 「このまま綾人を白濱グループの会長にさせてたまるか。恥をかかせて白濱エレクトリックの社長の座から引きずり降ろしてやる」 「そのために顧客情報を盗んだんですか」 「そうだよ。今日の綾人の謝罪会見、ざまぁみろって感じで笑えたわ。これであいつはもう終わりだ」 先程の怒りを含んだ表情とは違い、芳人は愉快そうに笑っている。 「綾人のやつ子会社へ飛ばされるらしい。もう二度と白濱グループの中枢企業には戻れないだろうな」 「全部あなたのせいで……」 「あいつが悪いんだ。どうやって祖父をたぶらかしたのか知らないが、愛人の子供のくせに長男の俺から後継者の座を奪ったりするから」 「奪ったわけじゃありません。綾人さんがたくさん努力をした結果です」 以前、零士に教えてもらった。綾人は自分を見下してきた白濱家の人たちを見返したくて、白濱グループの会長になるべくひたすら勉学に励み多くの努力を重ねてきたのだと。 そこにもともと持っていた才能も加わり、綾人は白濱家の後継者に選ばれたのだろう。 それなのに芳人が、まるで綾人がずるをして後継者に選ばれたかのように悪く言うから、由衣子は怒りが込み上げてきた。 温厚な性格の由衣子が他人に対してこんなにも腹立たしい感情を持つのは初めてかもしれない。
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