好きと気づいて

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そのとき、どこからかスマートフォンの着信音が聞こえた。 由衣子のは先ほど芳人に奪われて電源を落とされているので芳人のスマートフォンから音が鳴っているのだろう。 芳人の意識が一瞬だけそちらに向かった。 (今だ……!) そう思った由衣子は勇気を振り絞る。 片足を持ち上げると、下から芳人の腹部のあたりを目掛けて膝で蹴った。 「うっ……」 もちろん由衣子が人を蹴ったのは人生初だ。ためらってしまいだいぶ軽い蹴りになってしまったし、狙っていた腹部とは別の場所を蹴ってしまった。けれど、そこが芳人の下半身にある急所だったらしい。 由衣子にとっては運がよかったけれど、芳人にとってはだいぶ運が悪かった。 そうとう痛むのか芳人は覆い被さっていた由衣子から離れると、ベッドの下に転がるように落ちてその場にうずくまる。 「て、てめぇ……」 芳人が痛みに耐えるように悶えている。由衣子は慌ててベッドから降りると、芳人の前にしゃがみ込んだ。 「あ、あの、すみません。私、そんなつもりじゃなくて。だ、大丈夫ですか」 逃げようと思って蹴ったものの、そうとう痛がっている芳人を見て由衣子は心配になってしまった。 女性の由衣子には今の芳人にいったいどんな痛みが押し寄せているのかは想像つかないが、このまま置き去りにして逃げても大丈夫なのだろうか。 いや、でも逃げるなら今しかない。 命に係わるものではないはずだから大丈夫だろう……。
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