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「もう大丈夫ですよ、由衣子さん。あなたからの電話の途中で芳人さんの声が聞こえて。そのあとで不自然に通話が切れたのが気になり、由衣子さんになにかよくないことが起きたのではと心配で綾人さんと共に行方を探していました」
どうやら由衣子のことを助けに来てくれたらしい。どうしてここがわかったのかはわからないけれど、とりあえずこれで安心だ。
「よ、よかった」
ホッとした由衣子だけれど、部屋の中からは綾人と芳人の言い争うような声が聞こえてくる。
すぐに零士が室内に向かったので由衣子もそのあとを追う。
「芳人。俺の会社の顧客情報を盗んだ犯人はやっぱりお前だったんだな」
「だったらどうする」
どうやら芳人は先ほどよりも痛みが引いているらしい。ベッドに浅く腰掛けながら、綾人のことを睨むように見つめている。そんな芳人のことを綾人もまた険しい表情で見ていた。
「犯人はお前なんじゃないかと疑ってはいたんだ。最近、俺の周りでこそこそと怪しい動きをしているのは知っていたからな。目的は俺を白濱グループの後継者から引きずり降ろすことだろ」
「その通りだよ、綾人。俺はお前の存在がずっと目障りだった。だからお前の会社の顧客情報を盗んだ。お前を失脚させるために全部俺が仕組んだことだ」
「へぇ」
「悔しいだろ、綾人。お前はもう終わりなんだよ」
「それはお前もだろ、芳人。こんなことをして、どう考えてもお前の方が罪は重いんだ。白濱家には戻れないぞ」
綾人の鋭い言葉に対して、芳人がフンと鼻で笑った。
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