好きと気づいて

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綾人のためになりたいとずっと思っていた。 最後は助けてもらってしまったけれど、少しは綾人の役に立てたのかもしれない。そう思ったら、由衣子は少しだけ気持ちが上に向いた。 再び車内が静寂に包まれる。 いつの間にか渋滞は抜けたようで、ふたりを乗せた車はスムーズに進み始めた。 由衣子はシートベルトをぎゅっと両手で握りしめながら、運転席に座る綾人にちらりと視線を送る。 「あ、あの……」 「なに?」 「芳人さんは大丈夫でしょうか」 「芳人? 零士が一緒にいるから大丈夫だろ。今さら逃げたりしないって」 「そうですよね……」 由衣子はうなずくと、視線を前方に戻した。 芳人は今、零士と共に白濱家の本邸に向かっている。零士はそこで白濱グループの会長である綾人の祖父たちの前で芳人の犯した罪のすべてを洗いざらい話すそうだ。 本来ならばそれは綾人の方が適任だが、綾人は由衣子を実家まで送ることをひとまず優先させた。 由衣子が白濱家のお家騒動に巻き込まれて芳人に攫われたことはもう花森家の耳にも入っている。 そのことの謝罪を綾人自らするために由衣子を実家に送ることにして、そのあとで白濱家の本邸に向かう予定だ。 「なにか心配事でもあんの?」 不安な表情で前方をじっと見つめていた由衣子は、綾人にそう尋ねられてピクッと肩を揺らした。 綾人と零士がホテルまで乗ってきた車は今、綾人が使っているため零士と芳人はタクシーで白濱家の本邸に向かっている。
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