好きと気づいて

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ホテルを出たときの芳人はすべてをもう諦めたかのように大人しくしていたが、タクシーの中で抵抗したりはしないだろうか。そうなった場合、零士ひとりで大丈夫だろうか。 もちろん由衣子はその心配もしていたけれど、別の心配事も思い出してしまい、そちらの方が由衣子にとっては気がかりだった。 さっきは綾人に話すのをためらってしまったけれど、由衣子の不安を払拭するには男性である綾人に尋ねるのが一番。 由衣子は小さな声で口を開いた。 「実は私、ホテルの部屋から逃げるときに間違えて芳人さんの急所を蹴ってしまって……」 「急所?」 「そこを狙ったわけじゃないんです」 それだけはわかってほしくて由衣子は強調するように大きな声で言った。 「本当はお腹のあたりを膝で少し蹴って隙を見て逃げようと思ったんです。でも、間違えて急所を蹴ってしまって、芳人さんがすごく痛そうにしていたので……女の私にはその痛みがどれほどのものなのかわからないのですが、大丈夫なのでしょうか」 由衣子は真剣に尋ねたつもりだ。けれど、運転席でハンドルを握る綾人がクツクツと笑い出す。 「マジで? お前、急所って芳人の股間蹴ったの?」 「こ、こ、こ……」 わざわざそこの部分の言い方を変えて話していたのに綾人がはっきりと口にするから、由衣子は動揺してしまう。
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