好きと気づいて

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「だから芳人のやつ俺があの部屋に入ったときから顔色悪かったのか。俺はてっきり自分の悪事がバレたせいだと思ってたけど、まさか股間蹴られたあとだったとはな。ざまぁみろだ」 「あれはやっぱり痛いんでしょうか」 「もちろん。地獄のように苦しい」 「じ、地獄……」 その例えに由衣子の表情がサッと青ざめる。 やはりそうとう痛かったらしい。故意ではなかったものの悪いことをしてしまったと由衣子はものすごく反省する。 けれど、それを聞いた綾人はさっきからずっと笑っていた。 「やっぱり最高だな、お前。初めて会ったときからおもしろい女だと思ってたけど、最後まで俺の期待を裏切らねぇ行動するんだもんな」 期待を裏切らない……とは、由衣子が芳人の急所を蹴ったことを言っているのだろうか。 だとしたら由衣子は決してわざとそこを狙ったわけじゃないのだけれど、どうやら綾人はその行動がかなりツボにハマったらしい。 さっきからずっと笑いっぱなしだが、一方の由衣子は少しも笑えない。 逃げるためとはいえ蹴ってはいけないところを蹴ってしまった罪悪感でいっぱいだ。 誘拐されて、あと少しで襲われそうになっておきながら、芳人に謝罪した方がいいのだろうかと由衣子は真剣に悩み始める。 「――ますますお前に惚れそうじゃん」 運転席からふと聞こえた言葉に、由衣子はハッと顔を上げて綾人を見た。 さきほどまであんなに笑っていたのに今は少しも笑っていない。真剣な……いや、少し寂しそうにすら見える綾人の横顔を由衣子は見つめた。
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