好きと気づいて

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――この縁談を受けて、あんたと結婚してもいいよ。 ――ただし、ひとつだけ条件がある。 由衣子は見合いの日の綾人とのやり取りを思い出す。 ――俺がお前を好きになったら結婚してやるって言ってんの。 「でも、結婚はできない」 「えっ」 ふと車内に響いた綾人の声に、由衣子は胸に添えていた手をそっと下ろす。 「で、でも、好きになったら結婚してくれるって……」 そう約束したはずだ。それなのにどうして。 すると、綾人が重たいため息を吐き出した。 「あのときとはもう状況がだいぶ違うんだ。俺が由衣子を好きになっても、もう結婚は無理だろ」 前方の信号が赤に変わった。綾人がゆっくりとブレーキを踏んで車が停まる。 「縁談を断ってきたのは花森家だ。だから、お前がどうしても俺と結婚をする理由ももうない」 ハンドルを握ったまま綾人の視線は前方の信号に向かったまま動かない。由衣子はしばらく綾人の横顔を見つめていたけれど、なにかを決意してはっきりと口を開いた。 「理由ならあります」 その声に綾人の視線が由衣子に向かう。 「私も綾人さんが好きです。だから、これからも一緒にいたいです」 「お前、それマジで言ってる?」 「マジです」 由衣子が綾人の言葉を真似して言ったときだった。 突然、綾人が運転席から身を乗り出して助手席に座る由衣子に顔を近付ける。その瞬間、由衣子の唇は綾人によって塞がれていた。 「――っ」 キスをされている。そう気が付くのに時間はかからなかった。
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