好きと気づいて

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暗闇の車内で由衣子と綾人の唇が重なり合う。触れるだけの優しいキスはあっという間で、すぐに綾人が唇を離した。 助手席へと乗り出していた体を戻した綾人は運転席のシートに背を着ける。信号が赤から青に変わり、ハンドルを握るとゆっくりアクセルを踏み込んだ。 車が再び動き始める。 由衣子はしばらくぼーっとしていた。一瞬の出来事だったけれど、確かに由衣子の唇に綾人の唇が重なった。その感触がまだはっきりと残っている。 由衣子の心臓がばくばくと音をたてている。すぐ隣の綾人に心音が聞こえてしまうのではないかと思うくらいドキドキしている。 さっきのキスが由衣子にとってのファーストキス。その相手が綾人で嬉しいと由衣子は思った。 「このまま駆け落ちでもするか」 「え?」 ふと聞こえた綾人の声に由衣子はそちらに視線を向けた。 「このままだとなんか俺たちロミジュリみたいだよな」 「ロミジュリ?」 「ロミオとジュリエット。知ってる?」 有名な劇作家の作品のことだろうか。それなら知っているので由衣子がうなずくと綾人が言葉を続ける。 「まぁ、まったく同じ状況ってわけじゃないし、この話に例えるとちょっと大げさかもしれないけど、家柄とかしがらみとかそういうののせいでお互いに好きって気持ちだけじゃ結ばれないって点は似てるよな」 「そうかもしれないですね」
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