結婚の条件

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この日のために新調した着物は京都にある老舗呉服屋のもので、淡いピンクの生地に上半身から裾まで流れるように華やかな模様が描かれている。 値段は軽く五百万を超えており、身に着けるだけでピリッと気持ちが引き締まる。 なにしろ由衣子にとってこのお見合いは絶対に失敗ができないのだ。必ず成功させて、お見合い相手である〝白濱(しらはま)綾人(あやと)と結婚しなければならない。 それが花森家の長女として生まれた由衣子の役目。 花森自動車の跡取りは四つ上の兄だとすでに決まっているため、由衣子は由衣子のできることで花森家に貢献するのだ。 万年二位の花森自動車を業界一位へと押し上げて他社の追随を許さない大企業へと発展させる。そのためにも由衣子は家柄のいい男性のもとへ嫁がなければならない。 カコーンとまた鹿威しが鳴った。 宙を舞う花弁に見惚れていた由衣子はハッと我に返り、目の前の見合い相手――白濱綾人にちらりと視線を送る。 綾人もまた先ほどまでの由衣子と同じく庭園に視線を向けていて、ひらひらと舞うピンク色の花弁を見つめていた。 綾人の生家は財閥の流れを汲み、現在も日本経済に大きな影響を与えている大企業『白濱グループ』。 金融・交通・不動産・観光・食品・製造といったありとあらゆる事業を国内外に展開している巨大な企業集団だ。
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