結婚の条件

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「……帰っても、いいんですか?」 見合いをするのは今日が初めてだけれど明らかにここで解散になる流れではなかった。親睦を深めるためにふたりで残されたはず。 綾人は軽くため息を吐いたあと、だるそうに片手で前髪をさっとかきあげた。 「ああ、なるほど。あんたも他のお嬢さんたちと一緒で真面目に見合いをこなすタイプね。オーケー、わかった。それなら場所変えようぜ。俺この店の雰囲気がマジで嫌いだから息詰まって死にそう」 綾人が素早く席を立つ。そのまま襖の方に向かって歩いていくので、由衣子も慌てて立ち上がった。 ずっと正座をしていたけれど、幼い頃からお茶やお花の稽古で慣れているから痺れてはいない。 由衣子は、襖の引手に手を掛けた綾人の背中に声を掛ける。 「あ、あの。でも、ここを離れてもいいんですか」 「別に問題ねえだろ。親も先に帰ってんだし。〝ここからは若いおふたりで~〟って言われただけなんだから、どこで残りの時間を潰そうが俺らの勝手だ。ほら、置いてくぞ」 「あ、待ってください」 綾人がすたすたと歩いていってしまうので、由衣子は着物の裾を直してから小走りでその後を追いかけた。
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