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今、目の前にいる彼と、お見合いの席での彼は同一人物なのだろうか……。
そう思えるほど、綾人の言動ががらりと変わってしまった。
「うまっ。やっぱこの店のパンケーキは最高だな」
綾人が大きな口でパンケーキを頬張っていく。その姿に由衣子はぽかんと口を開けながら目の前の綾人を見つめてしまった。
あのあと、銀座の料亭を出た由衣子たちは少し歩いた先にあるビルに入った。
その四階には綾人の行き着けのカフェがあり、慣れた様子で店内に入ると、顔見知りらしき店員と軽く言葉を交わしていた。それから窓際のゆったりとしたソファ席に座った綾人の対面に由衣子も腰を下ろした。
眼下には銀座の街並みを見下ろすことができる。
「あんなかしこまった店の料理じゃ食った気しねえよな。それに俺、和食ってあまり好きじゃないんだわ、味付けがダメ」
そうぼやきながら綾人はぱくぱくとパンケーキを口に運んでいく。
山盛りの生クリームにはたっぷりのチョコがかけられていて、バニラアイスまで添えられている。見るからに甘そうだ。
由衣子の前にも同じものが置かれているけれど食べる気にはならない。美味しそうだけど今はそれどころではなかった。
一方の綾人は甘さたっぷりのパンケーキをあっという間に食べ終わろうとしている。一緒に頼んだコーヒーにも砂糖とミルクを追加していたので、もしかしてすごい甘党なのだろうか。
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