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その日の朝、僕はまだ暗いうちにお父さんに起こされた。
「空、起きろ。朝飯食って出かけるぞ」
そろりと目を開けた僕にお父さんはにっと笑って白い歯を見せた。
のっそりと起き上がり部屋の中を見渡すと、そこには大きなリュックが用意されている。僕はこのリュックの意味を知っている!
『山へ行くんだね!』
言葉が話せない僕は、話す代わりにとびきりの笑顔をお父さんに向けると、お父さんは「お、気づいたか?」と嬉しそうに笑って、僕に朝食を差し出した。
こうしちゃいられない!食事はさっさと済ませよう!
僕が急いで食べていると、お父さんはそんな僕を嬉しそうに見ながら「あまりがっつくと喉を詰まらせるぞ」と言ってまた笑った。
あっという間に完食した僕は、お父さんと出かけられることが嬉しくて少し気が早いけど早速玄関に向かった。
「おいおい、待ってくれよ、俺を置いていく気か?」
『置いてなんかいかないよ、早く行こう!』
僕は言葉を話せないけど、お父さんには僕の言っていることがわかるみたいだ。
「よし、じゃぁ行こうか!」
お父さんと一緒に家を出て、車で山へと向かう。
当然、運転はお父さんで僕は助手席。
向かう車の中で、お父さんは嬉しそうに山の話を沢山してくれた。これから行く山は、大学の時に山岳サークルで登ったことがあるということや、今回は3日間かけて山頂を目指すということとか。
僕はお父さんの話をちゃんと聞いていたつもりだったけど、気づいたら途中何度か寝てしまっていた。
はっとして起きると、お父さんは「お、起きたのか」と、優しく僕を撫でてくれた。
僕はこのお父さんの、大きくて優しい手が大好きだ。
お父さんが仕事の時は、一人で留守番しなくちゃならないのは少し寂しいけど、それでもこうして少しでも僕と一緒にいてくれようとするお父さんが、僕の世界の全部なんだ。
時々僕が悪戯をして怒られちゃうときもあるけど、それは多分僕が悪いから仕方ない。
車が止まる。
山についたんだ!
「空、少し待っててくれるか。登山申請をだしてくるからな」
『わかった!』
お父さんは僕の頭をひと撫でしてから、車を降りて行った。
僕も山は好きだ。
土の匂いや、木の匂い、水の流れる音に、虫の声。
山は色んな音や匂いに溢れていて、僕をどこまでもワクワクさせるんだ。それにやっぱり一番は大好きなお父さんとずっと一緒にいられること。
暫くして戻ってきたお父さんは、車の後ろに積んでいた荷物を降ろしたり、靴を履き替えたりと支度をしている。助手席からその様子を見ていた僕と目が合うと、にっと笑ってからバンっ!と、後ろのドアを閉めた。
「よし、空!出発だ!」
助手席のドアを開けて貰うと、僕は勢いよく外へと飛び出した!
『お父さん、楽しみだね!』
「今からはしゃぐと、持たないぞ」そう言ってお父さんは目を細めて雲がかかる山頂を見上げた。
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