神様、もう少しだけ

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初めは走ることに必死で気づかなかったけど、走っているうちに身体のそこかしこに激痛が走った。 でも、僕は進むことを止めなかった。 今、お父さんを助けられるのは、僕だけだ! 痛くないっ!痛くないっ!痛くないっ! 全神経を耳と鼻に集中させる。 人の声、どこかで人の声はしないか、人の匂いはしないか。 進む速度は徐々に落ちて、視界がかすんできた時だった。 かすかに人の声が聞こえた。 『助けてください!お願いです!お父さんを、僕の大切なお父さんを助けて!』 僕は声の限りに叫んだ。 人の言葉には程遠い僕の声だけど、お願いします。気づいてくださいっ! どうか、僕の声が届きますように。 そして、お父さんを助けて! 何度も、何度も叫び続けている僕の視界が一瞬明るくなった。 「おい、あそこだ!」 「どこだっ!ライトを照らせ!」 人だ! 『お願いします!お父さんを助けてください!』 僕はよろよろと、声を頼りに歩み寄るとそこには、、数人の男の人たちがいた。 彼らはボロボロな僕を見て、ぎょっとしたような顔をしたけど、そのうちの一人が言った。 「今日登山に入った長瀬さんが連れていた・・・・」 その一言で、彼らの顔色が変わった。 僕はそのうちの一人の、服の裾を引っ張った。 『こっちです!お父さんがこっちにいるんです!早く来て!』 本当に、どうして僕は言葉が話せないんだろう。 「もしかして・・・・長瀬さんの居場所を知っているんじゃないのか?」 「よし、行こう!案内してくれ!」 僕は今来た道を戻った。 何度も後ろを振り向きながら、彼らがついてきていることを確かめながら。 けど、そうして歩いているうちにだんだんと耳が聞こえなくなって、手足の感覚はもう大分前からない。荒く呼吸をするたびに、身体のそこかしこががキシキシと痛くて・・・けど、その痛みが逆に僕を奮い起こさせた。 もう少し、もう少しだよ! お父さん、待っててね! 神様、お願いです。この人たちをお父さんの所に連れて行くまで・・・・どうか、僕を連れて行かないで・・・・。 もう少しだけ、僕に力をください。 「おい、見ろ!あそこだ!あそこに人が倒れてるぞ!」 ぼやけた視界に、彼らがお父さんに駆け寄るのが見えた。 よかった。 きっとあの人たちが、お父さんを助けてくれる。 そして僕は、崩れる様に倒れこみ意識を失った。
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