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プロローグ
増えすぎた人びとは観念し、あらゆる未開拓領域へ旅立っていった。
文字通りありとあらゆる未開拓領域へ。
植民がかつてない規模で実施され、片道何光年も離れた星ぼしまでもが対象とされた。地理的隔離が起きた結果、人びとは種分化し、数え切れないほどの〈ホモ・サピエンス・なにがし〉が生まれては消えていった。
それでも人びとはある呪縛から逃れられないでいた。
DNAからの複製命令である。
もちろん情報保存媒体をDNA以外の核酸に変更した人類もいたし、肉体を捨てて電子空間へみずからを退避させた人類もいた。けれども本質的な問題は解決しなかった。彼らの体内で自己複製子は絶叫し続けていた。「われを複製せよ!」
自身に潜む再生産への飽くなき欲求にうんざりしたある民族は決心した。もうDNAの不死性を担保するために乗り物を延々とこしらえるのにはほとほとうんざりだ、いい加減乗り物自体を壊れないように再デザインするべきときではないか、と。
彼らは長い苦難の末、そうすることに成功した。以後、乗り物は壊れなくなった。
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