スーパーヒーローの定義

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スーパーヒーローの定義

「定義?」  タカハシが聞き返した。 「そう定義が必要じゃないか」  タナカが答える。 「つまり世界最初のスーパーヒーローが誰かを論じるにはまず、スーパーヒーローの定義をはっきりさせなきゃいけないとタナカさんは言ってるわけだね」  ヤマダが言った。 「そのとおりだよヤマダさん。言い換えるならスーパーヒーローの条件だね。普通のヒーローとは違う、これがなければスーパーヒーローとは言えない必須要素みたいな条件は何だと思う?まずはタカハシさんから」  タナカの問いにタカハシは少し考えてから答えた。 「やっぱりスーパーなんだから、常人には無いスーパーパワーというか超能力を持っている事じゃないかな。ヤマダさんはどう思う?」 「うーん、それはどうだろう。それならバットマンはどうなる?彼は特にスーパーパワーは持たない常人だが、スーパーマンと並ぶ大物スーパーヒーローだぞ」 「ヤマダさんの言う通りだと思うな。DCのスーパーヒーローならグリーンアローも弓矢の名人だが常人だ。似たようなキャラでマーベルのホークアイとかもそうだし、パニッシャーも常人だよ。日本は意外と常人スーパーヒーローは少ないが、月光仮面がそうだね」 「つまりタナカさん、スーパーパワー必ずしもスーパーヒーローの条件ではないという事なのか」 「そういうことになるね」 「やはりスーパーヒーローの条件は正義の味方であることじゃないか?」 「あ、ヤマダさん、それ賛成」 「いや、ヤマダさんもタカハシさんもよく考えてほしい。正義というのが立場によって変わることは僕たちもよく知っている事だろう?たとえば悪の秘密結社とされているショッカーだって、彼らの理念は正義なんじゃないのか」 「そうだった。だから仮面ライダーは正義のためじゃなく、人間の自由のためにショッカーと戦うんだったよな」 「じゃあタナカさんはどう思うんだい?スーパーヒーローの条件とは」  タナカはふたりの顔を交互に見てから言った。 「それはやはり変身することでしょう。常人である人物がヒーローである別人に変身する。これこそがスーパーヒーローの条件じゃないかな」 「変身能力が必要ってこと?」 「いや、日本のウルトラマンや仮面ライダーみたいな変身能力を持つヒーローというのは、スーパーヒーローの本場アメリカではそう多くないよ。変身と言ってもマスクを被ったりコスチュームを着たりでいいんだ。ようするに普段の自分とは別のヒーローという人格に変身するっていう意味」 「でもヴィランでも変身する奴は居るぜ」 「いや、ヴィランにも変身する奴は居るがそれは必須条件ではない。過半数のヴィランは最初から怪人だったり悪党だったりする」 「なるほど・・・あ、でも黄金バットはどうなる?あれはヒーローだけど変身せずに最初から黄金バットだ」 「だからタカハシさん、僕は黄金バットはスーパーヒーローとは思っていないんだ。あれは魔人召喚でしょ。アラジンのジーニーと同じ」 「たしかに。じゃあ変身がスーパーヒーローの条件とすると、世界初のスーパーヒーローは結局誰なんだ?タナカさん」 「遡れば神話の時代まで誰か居そうだけど、僕の知る限りでは世界最初のスーパーヒーローは怪傑ゾロじゃないかなと思う」 「ゾロか・・あれは初出はいつごろ?」 「1910年ごろらしいよ。ちなみにバットマンがゾロにインスパイアされて生まれたスーパーヒーローなのは有名」 「紙芝居のころの黄金バットよりさらに古いんだね」 「20年くらいは古いし、貴族の放蕩息子のディエゴがマスクを着けて、虐げられた民衆に味方する最強剣士ゾロに変身する。スーパーヒーローの基本を押さえているよ」 「アメリカのスーパーヒーローがゾロなら日本のスーパーヒーローは時代劇の影響大きくない?」 「仮面ライダーとかスーパー戦隊なんかは完全に東映時代劇の流れだよ。敵の前に出て来てから長々と啖呵を切ったり、わざわざ敵の前でポーズ取って変身したりね。その間、敵は決して襲い掛かったりせずにじっと待っているのが東映スタイル」 「歌舞伎にも通じる美学なのかもね。ああしかしやっぱりいいよね。僕もスーパーヒーローになりたかったよ」 「僕だってライダーになりたかったさ」 「誰だってそうでしょ。スーパーヴィランに憧れる奴も居るだろうけど、普通はやっぱりスーパーヒーローだよね」 「なのに僕たちはどうしてこんなになっちゃったのかね?」 「さあね。でも変身は出来るようになったじゃない。僕たちはもうすぐまたタナカでもタカハシでもヤマダでもない別人になる」 「ああ、本当だ。僕たちを呼びに来た」 「あはは、スーパーヒーローに変身タイムだね」  コツコツと足音が近づいてくる。 「2012番、2015番、2160番、出なさい」  刑務官が呼称番号を呼んだ。
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