廃病院の怖キモ

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廃病院の怖キモ

その夜、彼らの純粋無垢な好奇心は… 支離滅裂な恐怖心へと変わり果てたのだった。 これは、何十年も遡った話になる。その当時、取り壊されることもなく、使われることもなくなった 廃病院での出来事である。 すぐに馬鹿な行動をとりたがる男子中学生3人組が、その夜に思いつきで放った一言が、そもそもの始まりであった。 「廃病院、探検してみようぜ」…と。 日曜日になると、次の日は学校の週の始まり…登校することは、ただただ億劫なことこの上ない。彼らに蓄積されたそのストレスは、寝付きたくない 夜に行動する事で 発散されていく。 早く寝ればいいものを… 彼らは懐中電灯を各自持参して、自転車で廃病院に向かった。 夜の月明かりを嘲笑うかのように、眼前に異様な雰囲気で漂う廃病院が姿をあらわす。 日中には元気で無邪気な彼らの心も、いざ辿り着いてみると 恐怖が次第にまとわりついてくる。 しかし、ここまで来たら行くしかない。彼らを突き動かす 自然な好奇心…それは大人には理解し難い感覚であろう。 彼らは、緩めの立ち入り禁止ロープを身軽にかわし、病院に窓を割って侵入しようと考えた。出入口は全て施錠されているだろうと想定していたからである。 勿論その通りであった。 しかし、なぜか、数ある出入口の一つの鍵が壊されていたのである。 この時の この違和感に、もっと注意深く、気を配っていれば 彼らの関係は今もなお続いていたのかもしれない…。 窓を割る手間が省け、彼らはそのドアから 侵入を試みた。 手持ちの懐中電灯の明かりをつけ、恐る恐る中を照らす。 入った瞬間のカビ臭い匂いとアルコールの嫌な匂い…もわぁっとした空気が鼻腔を刺激するも、強気な彼らは 奥へ奥へと歩を進めていく。 ガサガサガサガサ。 その音にびっくりする。何年も使われていない廃病院である ネズミやゴキブリが巣をつくっているのも当たり前である。 ガチャン…。 彼らの一人が懐中電灯を落とした音であった。 ピチョンピチョン…。 廃墟にはあるあるの天井から水滴が落ちる音であった。 ブルブルブル…。 彼らがこぞって、背中に寒気を感じた瞬間… 臆病者たちは、震える声で、こう囁いた。 「もぉ、今夜はここまでにして、も、戻ろうぜ…。」 「う、うん。そうしよう…。」 「明日、学校もあるしね…。」 何と情けないことか…更に2階、3階へと探索する予定は、彼らの恐怖に蝕まれた心によって 敵前逃亡をとる形となってしまった。 彼ら3人の合意により、来たルートを引き返そうとした…その時、彼らの1人が恥ずかしそうに口を開いた。 「ちょっと、ションベン我慢できないから、そっちの角でしてくるね…待ってて…。」 コクリと静かに頷く2人。 彼は股間を押さえながら、足早に廊下の角を曲がり、姿を消した。 コチコチコチコチ… しかし、待てども待てども…用足しをしにいった彼は戻ってこない。待ちぼうけの2人は流石に遅すぎると思い、置いて帰る訳にも行かず、彼の用足場にイライラしながら、向かった。 「おーい、早くしろよ!いつまで…えっ…」 曲がった先に…彼の姿は無かったのである。 どこまで用を足しに行ったのか…皆目見当もつかないが、何かあったのではないかという不安と恐怖で足が震えた。 「か、隠れて驚かせようとしてるなら、ふざけてないで、で、出てこいよ!」 2人はお互いの身体を擦るようにして、奥の方へと進んでいく。 シャカシャカシャカシャカ… 何かと何かがぶつかり合うような…そんな音が奥の部屋から聞こえてきた…。 薄汚れてはいたが、手術室… という掛け札が見えた。 ゴクリと生唾を飲み込み、彼ら2人は恐る恐る 真っ暗なその室内を覗きこんだ。 はっ…ふっ…あっ…あぁぁぁ…。 開いた口が塞がらないということは、こういうことだったのか…。 懐中電灯の光が照らす先、手術台のベッドであろうか。 その上に、彼は…何ともおぞましい姿で寝そべっていたのである。 彼の表情は苦悶とは決して呼べぬ 安堵と快楽の表情に満ち足ちているようであった。 時が止まったのかのように、お互い硬直しあい、目を見合わせていた。 彼は…ベッドの上で 何を思ったのか… 自慰行為をしていたのである。 そそくさと、彼はズボンを上げるが、 その光景はもはや、脳内に染み付いている。 状況を整理する頭が追いつかない… なぜゆえ、彼はこんな場所でそのような行為に至ったのだろうか。 心配した側の気持ちを 鋭い刃で切り裂いてきた彼の破廉恥な行いは 未来永劫 伝説のオナモンとして語り継がれていくのであろう。 咄嗟に隠そうとした彼の右手には懐中電灯が握られていた。 中の電池は全部取り出されていた。代わりに室内にあった濡れ気味の脱脂綿を中に入れ、質感を表現し、絶頂を促す 補助道具として使用していたようである。 肯定する気は甚だないが、彼は恐怖のあまり、尿意を催した…と、それと同時に強ばっている己のイチモツの存在に気づいた。 膨らみ具合を他人に悟られたくない…その衝動が、今起きている 昇華行動 に繋がったのであろう。 恐怖に侵食された彼の身体に、何かしらの異変が起き、興奮作用が働いてしまった結果なのかもしれない…。 みっともない半起きの彼がいるベッドの下に シワシワになったゴム製品らしきものが、使用済みの状態で複数散乱している状況にも納得がいった。 後から聞いた話だが、そこは巷でも有名な 男女が性欲を満たすために使われているセクスピタルスポットであったのだ。性行為をあらわす SEX と、病院の HOSPITAL を掛け合わせてつくった造語である。 「お、おまえ、何してんだよ。は、早く帰るぞ…。」 「ご、ごめん。すぐに行くよ…。」 「その懐中電灯は、捨てていけよな…。」 事の一部始終を問いただすこともなく、彼ら3人は寡黙を演じつつ、足早に、その廃病院を後にした。 翌日、廃病院で羞恥行為をした友達は学校に現れなかった。 真実味を帯びた噂が広まり、学校中から白い目で見られることを恐れた結果に違いないだろう。 非日常的な一瞬の恐怖よりも日常的に継続していく恐怖…。 耐えうる術は、ネタにして開き直るか、記憶の風化を待つのみ。 そんな心配を他所に、 目の当たりにした彼の友達2人は固く口を閉ざす。 下校途中、肩を組んで歩く2人は会話を楽しんでいた。 「シーツ新しいの用意していくよ!」 「おっけ!ありがとう!」 秘密の関係、解放できる新しい居場所…それらを公にする必要性は決してない。 彼ら3人だけの 甘くて苦くて、愉快でホラーな 切ない思い出。 そう言えば、あの日 ドアから入った時、確実にドアは閉めたはずなのに、出る時に開いていたのが気になったな。まぁ、今となってはどうでもいいことだが。 [完] ※決して、LGBTの関係性を貶す内容表現として、使用したつもりはありませんので、ご了承ください。
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