氷の種子

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 僕が初めて彼を見たとき、あまりの肌の白さに全身に緊張が走った。  自分という存在がその美しさを汚してしまうかもしれないという怖れからなのか、単に驚いただけなのかはわからないが、その白は今まで見たことのない白で、絵の具の白とも雪の白とも一線を画しているものだった。  彼に出会ったのは高校二年生の春で、進級とともに理系クラスと文系クラスに分けられた僕らは理系の特進クラスで出会った。男子の多い理系クラスの中でも彼は一際異彩を放っていて、僕の中でも印象深かった。  体は大柄な方で、何かスポーツをしていそうな雰囲気はあったがそれが何なのかは全くわからない。少なくとも外でする競技ではないだろうということだけ。とにかく肌が白くて、教室内の空気に溶け込んでしまいそうなほどの透明感があった。  彼の肌がいくら白かろうと僕には関係ないはずだが、伝染して自分まで白く染め上げられそうでやたらとそわそわしたのを覚えている。顔立ちも薄く古風な作りだったので、鶯の鳴くようなさぞかし優美な声だろうと思ったが、期待は見事に裏切られた。 「おっす、おはよー!」  彼の声は朝の挨拶から耳障りなほど騒々しく、低めのハスキーボイスだった。あの古風な顔からはあまりにもかけ離れていて、数少ない理系の女子たちが若干引きぎみだった。そして僕も。  意外な部分は他にもあった。それは二年生に上がってすぐ行われた実力テストの結果だ。  僕は一年生のころとは変わらずまた一桁にはなれず、理系に分かれても一緒だった。八クラスの中の三クラスが理系で、理系三クラス合わせて百人程度。その中でも一桁にはなれなかった。  特進クラスは基本的に成績と希望者で選ばれるので、一桁に入るのはほとんどこのクラスからだと考えられる。すなわち、特進クラスに僕より頭のいい生徒が十人はいるということで半ば諦めモード、その中の一人に椿伶也(つばきれいや)がいた。
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