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変身グラスホッパーBLACK
秋深し、稲穂も頭を垂れし頃、金色の絨毯に挟まれし鼠色の農道を歩く少年が一人いた。その少年は農家の息子で、金色の絨毯は少年の家の田んぼである。少年は自らの家の田んぼが豊穣であれば小遣いも増えるとあり通学路の農道を歩きながら金色の絨毯を見ては機嫌を良くするのであった。
そんな日の帰り道、少年はいつものように学校からの帰宅の途に就き、農道を歩いていた。
すると、少年の目の前を殿様飛蝗が横切った。いつもであればぴょんぴょんと飛び跳ねているのに、こいつは歩いてるじゃないか。
少年は首を傾げながら、体勢を低くして殿様飛蝗を注視する。その殿様飛蝗は深緑色の表皮で茶色の地に黒い斑点の翅姿、背には一回り小さな同じ色調の殿様飛蝗を乗せていた。
「バッタがおんぶしてらぁ」
少年の歳は小学校低学年頃、命の尊さや善悪の判断に対する考え方が乏しく、虫を踏みつけたり、捕まえては手足を引き千切りバラバラに解体することを抵抗なくこなしてしまう。一説であるが、幼児にとっては虫だろうと小さな薇仕掛の玩具だろうと「動くもの」に過ぎない、そこに「命」があるかどうかは考えるに至らないために平然と虫を殺すに至るのだろう。
そして「命」を知り虫を殺すことをやめるに至るにも年齢差が生じる。この少年は「命」の尊さにまだ気が付かずに虫を平然と踏みつけたり、バラバラにしたりと言うことも出来てしまうのであった。
「ウチの稲を食べるつもりだな! 許せない!」
少年は殿様飛蝗を踏み潰そうと足を上げた。殿様飛蝗は急に影が出来たことに気が付いた、そして、少年の靴が振り下ろされる風圧を触覚で受け、上から「何か」が降りてくることに気が付き、ぴょーんと跳ねる。
ドン!
「ちぃッ! 逃したか!」
少年の足は力強く農道に振り下ろされた。殿様飛蝗の踏み潰しに失敗したのだ。少年は腹を立て、更にドンドンドンと地団駄を踏み、殿様飛蝗を踏みつけにかかる。殿様飛蝗は逃げ惑う、しかし、背中に雄の殿様飛蝗の乗せていては高く遠く跳ねることも出来ない。こうなれば横の田に逃げるしかない! 殿様飛蝗は力を振り絞り、田に向かって飛び跳ねた。
すると、背中に乗っていた雄の殿様飛蝗が落下してしまう。
殿様飛蝗は頭を下げた稲穂へと掴まった。稲穂へと掴まる後ろ足に付けられた耳は何かが潰れるような鈍い音を捉えた。
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