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殿様飛蝗が農家の少年に踏み潰されてから幾星霜…… 少年は青年となり両親より農家を受け継ぎ、妻と息子(以降、少年と呼称)を儲け、幸せの絶頂にいた。
ある日のこと、青年は息子を連れて自分の田んぼにて田植えを手伝わせていた。しかし、少年にとっては重労働かつ退屈なもの。農道へと上がり休みをとるのであった。体育座りでボケーッとしていると、目の前に精霊蝗虫が跳ねていることに気がついた。
「あ、バッタ」
少年は精霊蝗虫を背中からつまみ上げた。精霊蝗虫はジタバタと足を動かし逃げ出そうとする。
「足、千切って放置しちゃお」
少年はまだ命の尊さを知る歳ではなく、昆虫をバラバラにして殺したり、踏み潰すなどと言うことも平然と出来てしまう。かつての青年の幼少期と同じである。
田植えを中断した青年がそれに気付き、少年の手を握り止める。
「生き物はむやみやたらに殺しちゃいけないよ」
少年は首を傾げた。
「どうして? お肉やお魚のために殺すのはいいのに? 虫を殺すのは駄目なの?」
ここで「命の尊さ」などと言った道徳を問うてもわかる年齢ではない、青年は姑息的(一時しのぎ)に虫殺しをやめさせることにした。数年後にわかってくれればいいとしての考えである。
「いいかい? とにかく駄目なものは駄目なんだ。こうやって虫を殺してるのを見るだけでお父さんもお母さんも悲しくなるから、やめておくれ」
「うん…… わかった」
「よし、逃しておあげ」
少年の手を離れた精霊蝗虫はピョンピョンと跳ねて、何処かへと消えていった。
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