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更に数カ月後…… 夏を迎えた。青年が植えた稲は成長し緑色の絨毯の様相を成すようになっていた。後は稲穂となるまでが一苦労。雀対策も強面の案山子とカイト鷹で十分。秋が楽しみだなぁと考えていると、空がいきなり暗くなるのを見た。太陽が雲にでもかかったのだろうか? そう考えて空を見た青年は腰を抜かす程に驚いた。なんと、空を覆い尽くす程の殿様飛蝗の群れがあったのである。
「うわ、スゲェ。あれが聖書に書いてあるイナゴの群れってやつか」
青年は田が心配になり、慌てて田へ向かった。その時にはもう手遅れ、緑色の絨毯を成す青々とした稲は葉も茎も殿様飛蝗によって食い尽くされていた。群生相の殿様飛蝗はその黒き表皮により殺虫剤すらも無効化する。もう、為す術もない。
青年は青々とした田んぼが荒れ野となるのを黙って眺めるしか出来ない。殿様飛蝗の群れで黒々とした空を仰ぎ見ながら青年は叫んだ。
「俺が何をした! 俺は真面目に田んぼを作ってただけだ! なんでこんなことするんだ! 神様!」
青年は遥か幾星霜の昔に殿様飛蝗を踏み潰した。そのことは覚えているはずもない。子供の頃に起こした「覚えるまでもない」出来事の一つに過ぎないからだ。
今、青年の田を蹂躙する群生相の殿様飛蝗達であるが、青年が少年だった時に踏み潰した孤独相の殿様飛蝗を祖とする。
つまり、踏み潰された脆弱なる祖の恨みを、その子らが幾星霜をかけ世代を重ね孤独相に変身し最強の子となり晴らしたのである。
青年は自らの幼少期の過ちが最悪最強の変身を殿様飛蝗に促したことなぞ知るはずがない……
おわり
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